【8月のコラム_1】麻辣鼎(マーラーディン)の謎
北千住駅西口からすぐの、「天七」「千住の永見」「幸楽」などの名店ひしめく飲み屋街。そのいちばんはしっこに「森栄」という店がある。友達と北千住でハシゴ酒をしていた際、初めて入ってみたのが10年近くも前で、それ以来ずいぶんごぶさたしてしまっていたが、先日行ったら変わらず営業中で嬉しくなった。

ものすごく小さな店内で、僕の知る限りは、いつも中国出身の女将さんがおひとりで切り盛りされている。最大の特徴は、看板でも大々的にプッシュされている「麻辣鼎(マーラーディン)」の存在だろう。


店内は写真撮影禁止だが、料理の写真だけは許可をもらって撮らせてもらうことができた。初めてこの麻辣鼎を食べた時、一般的な麻婆豆腐とは一味違う美味しさで、「どんな料理なんですか?」「味の決め手は?」とあれこれ聞いてみたものの、女将さんは「絶対に教えられない」の一点張り。本当になにも教えてくれなくて、そのこと自体がだんだんおもしろくなってきて、後半はもう、女将さんがどんなことならば教えてくれるのか? をつまみに酒を飲んでいた。
麻辣鼎の食べかたのおすすめは、豆腐をおよそ食べてソースだけになったところで、女将さんが揚げてくれる揚げもちを加えて食べるというもの。この斬新な組み合わせが、またまたうまい。


決まって合わせるのが「森栄ハイ」で、飲んでみるとふつうのハイボールのような味わい。そこで女将さんに「これってなにが入ってるんですか?」と聞くと、「絶対に教えられない」とのこと。
先日久しぶりに食べて興味がわき、麻辣鼎についての情報を検索してみると、なんとそもそも、この店のオリジナル料理だそう。看板にも「森家秘伝痺辛麻婆豆腐」とあるとおり、幼いころにお母様に作ってもらっていた家庭料理を再現したもののようだ。
ちなみに「鼎」とは、古代中国で使われていた、食べものを煮たりする三本脚の器のことで、それがやがて、神様をまつるための重要な祭器としても使われるようになった。また、その形状から「三つのものが並び立つこと」も意味し、麻辣鼎においては、「麻と辣と豆腐」を意味するのではないか? と推察できる。まぁ、女将さんに聞いても「絶対に教えられない」と言われてしまうんだろうけど。
ところで先日、ある取材の流れでこの店にご一緒させていただいたのが、雑誌『散歩の達人』編集長の、平岩美香さんだった。初めて食べた麻辣鼎の味について平岩さんは、「八丁味噌がベースなのではないか?」とおっしゃられていた。言われてみれば、こってりと濃厚でコク深いその味わいは、八丁味噌にかなり近い。使えば再現できるかもしれない!
と思ったものの、しかし待てよ、麻辣鼎は中国の森家秘伝の料理。日本の、愛知県岡崎市八丁町が発祥である八丁味噌が使われていた可能性は低いのではないだろうか?
そんなことがしばらく頭のなかにあって、先日思いついた調味料が、中国の「豆豉醤(トウチジャン)」だった。