大人のハッピーセット vol.1 〜ホッピーのマドラー問題〜
今週の【大人のハッピーセット】
大泉学園「大森喫茶酒店」の「ホッピーセット」と「お通し」
「大森喫茶酒店」は、我が家からも遠くない大泉学園駅近くに約5年前にでき、またたくまに地元を代表する人気店となってしまった店。その名のとおり、喫茶店と居酒屋のハイブリッドスタイルで、昼間から夜まで通しで飲めてしまい、喫茶メニュー、酒場メニュー、共に膨大。そのすべてをひとりで仕込み、作る店主、大森さんの手腕は、見事というより、もはやどうなっているのか理解不能なレベル。
また、お通しが常に、酒飲み的ににやりとしてしまうような小粋な品なのも嬉しく、この日は「自家製がり」と「ねりものとなめこのきんぴら」の小鉢2種だった。軽い昼飲みならば、これと「ホッピーセット」(450円)に「なか」(200円)のおかわり2回で完結してしまうくらいだ。
レギュラーメニュー(一部)
日替わりメニュー
ただもちろん、それだけでは終われない。なんたって、日替わりメニューボードに、あまりにも魅力的な品々がいつでも並んでいるので。
「夏野菜塩煮」(200円)
というわけでこの日は、「夏野菜塩煮」を追加で。シンプルな塩味で野菜の旨味、甘みが引き立つ絶品で、なんと200円!
お通しの値段を聞いたことがないんだけど、以上全部と、ホッピーのナカのおかわり×2も合わせて1500円弱くらいだったかな? まさに大人のハッピーセットだ。
今週のコラム 【〜ホッピーのマドラー問題〜】 ※今週は全編無料です
「正解はこれじゃないか!」
地元のなじみの店「大森喫茶酒店」で、いつものようにぼーっと昼酒を飲んでいて、突然膝を打った。「ホッピーのマドラー問題」についてだ。
もはや全国的に、酒飲みにとっては有名になった「ホッピー」。もともとは終戦3年後の1948年、当時高級品だったビールの代替品、“ノンビア”として発売された。このホッピー自体はノンアルコール(正確にはアルコール分0.8%ほど)なんだけど、それを焼酎の割材として使う飲みかたが酒飲みの間で流行し、今やすっかりそのスタイルが定着。特に東京下町の酒場を中心に、長く飲み継がれてきた。ビールよりもすっきりとしていて飲み飽きせず、もちろん僕も大好き。
このように焼酎(ナカ)とのセットで提供されるスタイルが定番
ところでこのホッピーの瓶の裏面には、このような文言が印刷されている。
「マドラーやスプーンや串等をびんの中に入れたりしないでください。びんを傷つけ、思わぬ破損の原因になります。ガラス製品は傷つくと破損しやすくなります」
意外とこのことを知らず、使い終わったマドラーは瓶に入れてしまっているという方も多いのではないだろうか。が、一度でもこの事実に気づいてしまった酒飲みに生じるのが、「マドラーをどこに置く?」問題。
僕はそもそも、ホッピーは焼酎の入ったグラスに注ぐ時点で対流で混ざるので、「マドラーは不要派」の姿勢をとっている。しかし世の中には、ホッピーセットにマドラーを添えて出す店のほうが圧倒的に多い。そりゃあそうだ。焼酎を割り材で割ったらなんとなくかき混ぜておきたくなるのもわかるし、そういうお客さんに頻繁に「マドラーある?」なんて聞かれるくらいなら、最初から刺しておけば手間が減る。
で、このマドラーをどこに置くか? 僕はそもそも、そこまで神経質になる必要もないと思っている。というのもさっきの注意書きはきっと、今よりもずっとガラスなどの質が悪かったころからの名残で、さらに、今よりもずっと荒くれていた戦後の酒飲みが、がちゃーん! なんつってマドラーを瓶に放りこんでいたころの名残であるんじゃないかと思っているから。だって、よくある黒いプラスチック製のシンプルなマドラーをそっと瓶に刺したくらいで、底のガラスが割れたり傷がつくとも思えないから。
なのでかつては、たまにそんなふうに対処していたこともあった。ところがずいぶん前、WEBで、今までに飲んだホッピーセットの写真をひたすら羅列するような記事を書いた時、そのなかの1枚に、うっかり瓶にマドラーを刺してしまっていたものがあった。それを見たある人からSNS経由で、「酒場ライターを名乗っておきながら、ホッピーの瓶にマドラーを刺してはいけないということも知らないんですね。本当にプロですか? 仕事、お辞めになったほうがいいんじゃないでしょうか?」などという、極めてイヤ〜な言い回しの指摘(ご本人は親切のつもりなのかもしれない)をもらったことがあり、それ以来、以前にも増して慎重になった。
だけど、ホッピーのマドラーって、本当に置き場所に困るんだよな。小皿に割り箸と並べて置いておくと、刺身を醤油につけるのにほんのりと邪魔だったりするし、しかもナカをおかわりするたびにそれがたまっていったりする。かといって、おしぼりの上にびちゃっと置いておくのもなんだかイヤだし……。
と、ここで冒頭の話に戻るんだけど、このホッピーセットは「大森喫茶酒店」のもの。「いやいや、マドラー、瓶に入れちゃってるじゃん! ダメじゃん!」とお思いかもしれないが、次の写真を見てほしい。
そう、このマドラー、ホッピーの瓶の底に届かない長さなのだ! しかも、本体はガラスながら、持ち手部分はプラスチック製になっている。つまり、そっと瓶に差し込んでやれば、まさか注ぎ口が割れるということもないし、瓶の底には接地していないから傷のつきようがない。
さすが酒飲みの心を痛いほどにわかっている大森さんがチョイスしただけある。
「正解はこれじゃないか!」
と、心密かに興奮した、ある日の昼飲み時の出来事だった。
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