「大人のハッピーセット vol.47」+今週のコラム（この世でもう二度と作られることのない、名もなき料理たち）+今週の日記

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高円寺「バクダン」の「コメカミ焼」と「ホッピー酎」/ 今週の「大人のハッピーセット」

　20代の10年間くらいを高円寺に入り浸って過ごし、そこで少しずつ、古き良き大衆酒場の魅力に目覚めていったという経緯が、僕にはある。そんななかで、名店という噂は聴きながら、ある事情によって、ついぞ一度も入ることのなかった大衆酒場。それが、駅北口を「純情商店街」から「庚申通り商店街」へと歩いていって数分の場所にある「バクダン」という店だ。

　ちなみにその“ある事情”については、別の連載「缶チューハイとベビーカー」に詳しく書いたので、ご興味があればそちらをどうぞ。

　で、先日、ついにこのバクダンを訪れることができた。娘が「お泊まり保育」という保育園行事で、初めて親と離れて外泊をする日、ちょうど高円寺の「VOID」というギャラリーで開かれていた、僕とラズウェル細木先生とスズキナオさんの3人展に、妻と出かけた。その帰り道、お泊まり保育で万が一なにかあってもすぐ対応できるよう、あまり帰りが遅くはならないようにしつつも、せっかくだから久しぶりに、ふたりで居酒屋にでも行きたいとなるのは当然で、その流れで。

「バクダン」は、当時と変わらない姿で、そこにあった。赤ちょうちんの年季の入りかたがすさまじく、大衆酒場という文字が解体されて崩れ落ち、まるで「たいしゅうさかば」と読む1文字の漢字のようになっている。

　からりと戸を開け、入店。見るからに古く、広くはなく、雑然ともしているんだけど、清潔感と開放感がきちんとある。間違いなくいい店だ。あぁ、もっと早く入っておくんだった。

　ホッピーセットは「ホッピー酎」という表記で、420円。それが毎月第2水曜日のサービスデーには50円引きになるというから驚く。ごくまれに酒場で出会う「Kyowa Shochu The Classic Elixir」と書かれ、赤と青のラインが入るグラスがなんともいい（たった今検索したらメルカリに出てて、思わず買ってしまった）。

　さて、料理。

　長年ていねいに使い続けられてきたことがわかる黒板に、これまたていねいな文字。いい。そしてどれも魅力的だ。第1弾は「ブロッコリー」「マグロ刺身」「シューマイ」かな。

　安定のブロッコリーに、「シューマイ」という表記がたまらない素朴な味わいのシュウマイがいい。それからまぐろが、思わず驚いてしまう質の高さで、もう幸せすぎる。

　ビアタンになみなみの「焼酎」、つまりナカをおかわりし、「コメカミ焼」「鳥もも串焼（塩）」の、肉ものたちを追加する。

　心地いい歯ごたえとともに旨みがあふれだすコメカミ焼が、にら醤油っぽいたれとあいまって絶品だ。かなりのビッグサイズで塩と焼加減ばっちりの鳥もも焼もうますぎる。

　あのころ来られなかったぶん、これからは何度でも通わせてもらおう。

この世でもう二度と作られることのない、名もなき料理たち / 今週のコラム