大人のハッピーセット vol.4 〜近江町市場、小一時間一本勝負〜

(1)今週幸せを感じたお酒とつまみの組み合わせ【大人のハッピーセット】と、(2)今週のコラム【近江町市場、小一時間一本勝負】の二本立てです。
パリッコ 2022.09.15
誰でも

武蔵関「和楽」のホッピーセットとたこ焼き / 今週の「大人のハッピーセット」

武蔵関「和楽」のホッピーセットとたこ焼き

武蔵関「和楽」のホッピーセットとたこ焼き

 看板に大きくたこのイラストと「関西 たこ焼き」の文字。さらに持ち帰り専用の窓口まであるので、見れば誰もが「たこ焼き屋」だと思う店、武蔵関の「和楽」。ところが店内に入ると小さなカウンター酒場で、酒もつまみも種類豊富で、しかも安くてうますぎるという、そのおもしろさも込みで大好きな店だ。

 大好きと言いつつ、前回来たのかいつだったか覚えていないくらい、年単位で訪れていなかったんだけど、先日久しぶりに行ったら、やっぱりとんでもなかった!

「うめきゅう」(200円)

「うめきゅう」(200円)

僕の大好きな生のきゅうりも、200円にしてこのボリューム。そしてこの端正さ。まだまだ蒸し暑い夜だったので、これと「ザ・プレミアムモルツ生」(550円)で始める。

「白コロホルモン」(300円)

「白コロホルモン」(300円)

 すぐにビールは飲み干してしまい、「ホッピーセット」(350円)を追加。念のため言っておきますが、値段は間違いではなく、「セット」で350円なのです! 合わせて、僕の和楽での大定番「白コロホルモン」も。

 この白コロホルモンが、値段からはとても想像できないほどの美味しさ。甘辛だれの味と、ちょうどいい焦げ目の香ばしさ。それを噛みしめると、素材がいいんだろう、ジュワッと香りのいい脂があふれ、もうたまらない。

 ホルモンでちびちびやりつつ、そろそろシメも頼んでおこう。そりゃあ、和楽でシメといったらこれですよ。

「関西たこ焼き 辛口」(350円)

「関西たこ焼き 辛口」(350円)

 たこ焼きは、甘口、あっさり、塩、辛口の4種類だけど、僕はなんとなくいつも辛口を頼んでしまう。外はこんがり、なかはとろ〜っの僕の大好きなタイプで、ひとりで8個はちょっと多いんだけど、やっぱり食べたいから頼んじゃう。

 「焼酎おかわり」、つまりホッピーのナカは150円。それを追加して、のんびりと堪能。あ〜、大満足。

近江町市場、小一時間一本勝負 / 今週のコラム ※今週は最後まで無料です

 日本全国いろいろな土地に酒を飲みに行くほど楽しいことはないが、コロナ禍に入ってから、新幹線を使ってまで遠出をしたのは、たった2回だけだ。

 どちらも仕事の依頼でひとり、感染者数の減ったタイミングを見ながら、最大限の対策をしつつ、京都と福井へ。京都へは、鴨川の土手でチェアリングをするため。福井へは、温泉旅館で旬の越前ガニをたらふく食べるため。あいかわらず「なんだそのふざけた仕事は!」とお叱りを受けそうな内容だが、実際、ただただ楽しかった。

 あれは2020年末のことだった。福井取材の帰り道、金沢駅で乗り換えの必要があり、どうにかスケジュールをやりくりし、1時間半ほどの空きを作ることができた。なぜかといえば、ずっと憧れていた「近江町市場」へ行くためだ。

 近江町市場は金沢市の中心部にあり、生鮮食品をはじめとしたさまざまな小売店約170軒が並ぶ巨大な市場。「金沢市民の台所」と呼ばれる一方で、観光地としても人気があり、とにかく色とりどりの美味しいものであふれ、それらをその場で食べ歩いたり、お酒を飲んだりできる夢のような場所なのだとか。行ったことのある友達のひとりなどは、「1日いれる」とさえ言っていた。

 そんな近江町市場へついに行ける! ただし、駅からの往復時間を考えると、僕に与えられたタイムリミットは小一時間だ。ちょっと無茶な時間設定であることは容易に想像できるけど、まぁ行けないよりはいい。よし、近江町市場、小一時間一本勝負だ! 僕は、小走りで市場へと向かった。

 市場は全体が巨大なアーケード街になっていて、想像以上の規模に圧倒される。また、土地勘がないので文字通り、右も左もわからない。「まずは早足でぐるりと一周し、全容を把握して」なんて考えていたけど、ぜんぜん無理。あれ、この道もう3回くらい通ってない? あと行ってない通りはどこなんだ? と迷っているうち、時間は10分15分と過ぎてゆき、気ばかり焦る。とても、観光をしにきた人間の様子ではない。

 少しして自分のそんな様子に気づいた僕は、いったん深呼吸をした。そうだ、こういうときはまず、どこの店でも、なんならコンビニで缶チューハイを買ってでもいいから、一杯やってしまうに限る。酒の力で心身のこわばりをほぐし、街の空気に自分をなじませるのだ。

 すると一軒の水産加工会社の店が目に止まる。店頭におでんの大鍋があったり、魚介類の串焼きを焼いたりしていて、その前には縁台もあり、冷蔵ケースには酒類も売られているから、そこで一杯やっていけそうだ。

 すかさず缶ビールを手にとり、「紋甲イカ下足串」(350円)、「うなぎの肝串」(250円)と合わせて注文。縁台に腰かけ、それらをつまみにビールをぷしゅり。……っふう。これだよこれこれ。酒は焦ってまで飲むもんじゃない。巨大ないかげそのぷりっぷりの身は、ほんのりと甘辛いたれをまとって香ばしく、うな肝は、肝と言いつつぶ厚い身の部分もたっぷりとついた初めて食べるタイプで、ちょっと普通じゃない美味しさだ。いやぁ、がぜん楽しくなってきたぞ〜。

 なんて悦に入っていると、カウンターのなかでひとり作業をしていたお姉さんが声をかけてくれた。

「お兄さん、おでん、サービスするから食べていきません?」

「え? い、いんですか?」

「そろそろ店じまいの時間で、余らせちゃってももったいないので。なんなら全部食べてってください!」

 確かに時間は夕方に近く、言葉はお姉さんの本心なのだろう。ところが僕は、ここで少し遠慮してしまった。また、他の店でもあれこれ食べてみたいという気持ちもあった。

「じゃあ……厚あげとくるま麩だけ、いただいてもいいでしょうか」

 金沢ではおでんは通年食べられる定番メニューで、「金沢おでん」と呼ばれている。特徴は京風のスープと、金沢らしい食材が入ること。というのは、あとから調べて知ったことで、その時はあまりよくわかってはいなかった。けれども、上品なだしが豊かに香るスープと、そのだしがじゅわりと染みた厚あげ、くるま麩(金沢の名産品らしい)は、どちらもびっくりする美味しさだった。

 お姉さんに、「ごちそうさまでした。美味しかったです。おでん、ありがとうございました」と伝え、僕はふたたび市場を歩き出す。

 時間的猶予は、ギリギリあと30分ほど。だが、最大の目的であった生牡蠣などの鮮魚をその場で食べられる店が、いくらなんでも多すぎる。値段もひとつ数百円のものから千数百円のものまでいろいろだ。どこで食べるのが正解なのかわからない。いや、正解なんてないんだろう。もっと時間があれば、のんびり歩き、店がまえを見たり、お店の人との会話を楽しみつつ、いいなと思った店で食べればいい。が、その余裕がない。けっきょくまた焦りはじめ、もういいや、次に目に入った店で食べよう! と決める。

 そうして食べた1000円の生牡蠣も、600円のぼたん海老も、確かにうっとりするほどの絶品だった。けれどもどこか、「ノルマをこなした」という気持ちがあるのも否めない。

 最終的にたどり着いたのは、市場の中心にある真新しい施設「近江町いちば館」地下の「夢屋」という惣菜屋。魚介に限らずあれこれ惣菜が売られていて、価格もスーパーと同程度。なにより、広々としたイートインスペースがあり、手書きで「居酒屋として使ってみませんか?」なんて貼り紙があるのが嬉しく、そこで680円だった「のどぐろの炙り寿司」とサービスの(だった気がする)みそ汁、それから金沢の地酒「福正宗」のカップを買い、寿司をつまみに飲んだ。のどぐろは名産地だけあってさすがにうまく、地上のにぎわいとは違うゆるい空気感も良くて、けっきょくここがいちばん落ち着いて飲めたかもしれない。

 急ぎ足で駅に向かう道すがら、僕は考えていた。思い返すに、近江町市場でいちばん心と体に沁み渡ったのは、あのサービスのおでんだった。自分って本当に小物だよな……。なぜあそこで遠慮してしまうかなぁ。あの時、「じゃあ、全種類ください!」と言っていたら、きっと無駄になってしまうおでんの数はずっと少なかったろう。それに、こういう仕事をしているんだから、そんな珍しいエピソードはいくつあったっていいじゃないか。後日どこかで、「いや〜、せっかく近江町市場へ行ったんですけどね、最初に入った店でサービスのおでんを全種類平らげたら、もうなにも食べられなくなっちゃって」なんて、披露できたかもしれないじゃないか。

 決めた。いつかまた必ず近江町市場へ行く。そして、あのお姉さんの店へ朝いちで行って、おでんを全種類頼む! 僕の近江町市場との本当の付き合いは、そこからやっと始まる気がする。

今回の内容は以上です。来月からは、

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